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「ITのことはよくわからないから、パソコンに詳しい若手社員に任せよう」 「システム会社に外注したから、あとは彼らがうまくやってくれるはずだ」
中小企業の経営者の方々と対話する中で、非常によく耳にする言葉です。しかし、実はこの「丸投げ」こそが、DX(デジタルトランスフォーメーション)が失敗する最大の原因であるということを、まずはお伝えしなければなりません。
DXは単なる「IT化」ではありません。今回は、DXを成功させるために不可欠な「司令塔」の正体と、現場が動くためのチーム作りの秘訣について解説します。
結論から申し上げます。DX推進の司令塔は、IT担当者ではなく「経営者自身」、あるいは「経営に直結する権限を持つリーダー」でなければなりません。
なぜ、ITに詳しい担当者だけでは不十分なのでしょうか。そこには3つの大きな壁が存在するからです。
DXの本質は、デジタル技術を使って「ビジネスモデル」や「業務プロセス」そのものを変革することにあります。例えば、「これまでの紙の伝票を廃止し、承認フローを簡略化する」といった決定には、部署間の調整や評価制度の変更が伴います。一担当者の裁量で、他部署の長に対して「明日から仕事のやり方を変えてください」と指示を出すのは、現実的に不可能です。
IT担当者は、技術的な「手段」に詳しくなりがちです。「どのクラウドソフトが高機能か」「どのツールが最新か」といった視点で選定してしまい、肝心の「経営課題をどう解決するか」という視点が抜け落ちてしまうケースが多々あります。結果として、高機能だが誰も使いこなせない「宝の持ち腐れ」が生まれます。
人間は本能的に変化を嫌います。現場からは必ず「今のままでも困っていない」「覚えるのが面倒だ」という反発が起きます。このとき、経営陣の強いコミットメント(関与)がなければ、担当者は孤立し、プロジェクトは自然消滅してしまいます。
「そうは言っても、私はITのことはさっぱりだ……」と不安に思う必要はありません。経営者がコードを書いたり、最新のAIを解説したりする必要はないのです。
DXにおいて経営者が担うべき最も重要な役割は、「ビジョン(目的地)を示すこと」です。
「わが社は3年後、デジタルを活用して顧客にどんな新しい価値を届けるのか?」
「従業員の働き方を、どれくらい楽にしたいのか?」
この目的地さえ明確に示せれば、ITの専門知識は後からついてきます。逆に、目的地が決まっていないのに「とりあえずDXを始めよう」と言うのは、行き先を決めずにタクシーに乗り込み、運転手に「どこかいい場所へ連れて行ってくれ」と頼むようなものです。
経営者が一人で全てを行う必要はありません。成功している企業には、必ず「3つのピース」が揃っています。
「なぜやるのか」を全社員に伝え、予算と権限を承認します。現場の反対が起きた時に、最後の一押しをする役割です。
実はこれが最も重要です。ITに詳しくなくても構いません。「自社の業務を誰よりも熟知しており、現状を変えたいという熱意がある人」です。現場の悩みをITの言葉に翻訳し、逆にITのメリットを現場の言葉で伝える翻訳者の役割を担います。
社内にITのプロがいない場合、外部のコンサルタントやITベンダーを活用します。彼らは「技術の専門家」として、他社の成功事例や最適なツールの選定をサポートしてくれます。
DXは「IT部門のプロジェクト」ではなく、「経営そのもの」です。
IT担当者はあなたの強力な右腕になりますが、ハンドルを握るのは経営者であるあなた自身です。「ITは難しい」という先入観を捨て、まずは「うちの会社がもっとこうなったらいいな」という理想を語ることから始めてください。
その熱意が伝わった時、バラバラだった組織は「DX」という旗印のもとに一つにまとまり始めます。