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「私、ITのことは本当に疎くて……DXなんて何から手をつければいいのか」
初めてお会いする経営者の方から、このような言葉をよく伺います。パソコンは苦手だし、新しいカタカナ文字にはついていけない。だから、DXの波に乗り遅れているのではないか、と不安を抱えていらっしゃるのです。
しかし、多くの企業のDX支援に携わってきたコンサルタントとして、私は声を大にして言いたいと思います。
「IT音痴を自認する社長こそ、DXを成功に導く素質を持っています」
これは決して、その場しのぎの慰めではありません。現場のリアルな実態に基づく、確固たる事実です。では、なぜ「ITに詳しくないこと」が強みになるのでしょうか。
少し想像してみてください。もし社長が新しいモノ好きで、ITトレンドに詳しかったらどうなるでしょうか。
「これからはAIの時代だ!うちも最新のAIツールを導入しよう!」 「話題のSaaS(クラウドサービス)を入れれば、もっと効率化できるはずだ!」
一見、とても先進的で頼もしく見えます。しかし、ここに大きな落とし穴があります。「どのツールを使うか(How)」ばかりに目が行き、「なぜそれが必要なのか(Why)」が抜け落ちてしまうのです。
その結果、現場の業務フローに合わない高機能なシステムが導入され、現場は新しいツールの操作を覚えるために残業をする……。ツールを入れること自体が目的になってしまう、典型的なDXの失敗パターンです。
一方で、ITに詳しくない社長はどうでしょうか。横文字の最新システムを提案されても、すぐには飛びつきません。そして、コンサルタントや部下に対して、ごく自然に、そして率直にこう尋ねます。
「で、それを入れるとうちの商売にどう役立つの?」 「現場の社員は、具体的にどう楽になるの?」 「お客様には、どんなメリットがあるの?」
これこそが、DXを絶対に失敗させないための「たった一つの思考法」です。
ITに詳しくないからこそ、ツールという「手段(How)」に惑わされず、商売の基本である「目的(Why)」から決してブレないのです。DXにおいて最も重要なのは、最新の技術を知っていることではなく、「会社をどうしたいのか」「誰のどんな課題を解決したいのか」という経営の軸を貫くことです。
では、IT音痴の社長は、具体的にどう動けばいいのでしょうか。
結論から言えば、「技術(How)のことは、詳しい人間や専門家に丸投げして構わない」のです。社内にITに明るい若手がいれば彼らに任せ、いなければ我々のような外部のパートナーを頼ってください。
その代わり、社長にしかできない、絶対に放棄してはいけない仕事が一つだけあります。それは「自社の未来像と、今ある痛みを言語化すること」です。
「月末の請求書業務で、経理担当者が夜遅くまで残業している。これをゼロにしたい」
「営業マンが日報を書くためだけに会社に戻ってくる無駄をなくし、お客様と向き合う時間を増やしたい」
こうした泥臭く、切実な「現場の痛み」や「経営の願い」を語ってください。その願いを実現するために、どのシステムをどう組み合わせるのが最適かを考えるのが、IT人材やコンサルタントの仕事です。
「DX」という言葉には、「デジタルトランスフォーメーション」という仰々しい響きがあります。しかし、その本質は「デジタル(IT)」の力を使って、会社をより良く「変革(トランスフォーメーション)」することに過ぎません。
主役はあくまで「変革」であり、「デジタル」は道具です。
「ITのことはよくわからない。でも、社員を楽にして、お客様をもっと喜ばせたい。そのためにどうすればいいか教えてくれ」
そう堂々と言える社長の元でこそ、真のDXは進みます。どうかご自身のIT知識のなさを引け目に感じず、胸を張って商売の課題に向き合ってください。そのまっすぐな姿勢こそが、会社を変える最大の原動力になるはずです。